有識者委員会 委員長 北澤 宏一氏は次のように述べています。
国民は「なぜ、制御できない技術を取り入れたまま進んできたのか」、「そもそもなぜ我々は何も知らされずに原子力は安全であると信じ込まされてきたのか」、「国民の安全を守るべき役割を付託されているはずの政府のチェック機能はどうして役割を果たせなかったのか」と疑問を抱くようになりました。
事故から数か月を経た今日においてさえ、「一部の国民が今後だまされる危険性についても、国民には決定事項だけが説明不足のまま伝達されて、詳細な情報は行政組織の一部だけで止められているのではないか」とする不満が生じ、国民は疑心暗鬼の中に置かれたままであるように感じられます。
そして報告書には次のような記述があります。
第9章:「安全神話」の社会的背景
「安全神話」を作り出す主体となったのは「原子力ムラ」と呼ばれる集団である。
「原子力ムラ」は大きく2つ。
1つは、原子力行政・原子力産業における推進体制としての「中央の原子力ムラ」・・財界、政界、マスメディア、学術界を含めた原子力維持の体制、
もう1つは「地方の原子力ムラ」・・雇用や作業員の宿泊需要、固定資産税、交付金、それによる施設やインフラ構築とその維持のための財政依存構造。
この2つの原子力ムラはそれぞれに自発的に「安全神話」を構築する一方で「一般国民」はムラの外部として「無知・無関心」を貫き安全神話に疑念をもたない。
2つの「原子力ムラ」の強固さにより、人々の意識や精神の中に「安全神話」が取り込まれ、「原発は安全であること」を信じることが社会を構成する基盤となっている。
原因究明や安全規制の改革、国民への説得を省略してストレステストを合格すれば安全であることの証明としている。安全神話を脱神話化することは容易ではない。
原子力という文字を地熱に置き換えたらどうでしょう。
よく似た状況が浮き上がってきます。
交付金や固定資産税、また建設下請けなどの経済効果などお金や仕事といった面からの地方のムラ社会、無関心な市民。推測だけで「安全神話」をつくりあげ徹底解明を省略して次に進もうとする姿勢。
「地熱発電は安全であること」を商工会議所や議会はどのようなプロセスで信じているのでしょうか。
鹿児島県や霧島市の経済社会の根幹にかかわる重大な決断を議論も解明も省略して進むべきではありません。
開発促進の陳情書の理由
地熱開発には10年前後の期間を要し、この間、環境調査を含む本格調査から土地造成、設備建設、試運転調整を経て操業に至るまでのいずれの課程においても以下に掲げる地元への経済効果は大きなものがあります。
1 建設需要 150~200億
2 工事期間中 工事要員の消費需要
(1)建設中2年間宿泊 約4億5千万円
(2)運転開始後定修等 年5千万円
(3)来客 見学者見込み 2300名(宿泊 飲食等地元消費が見込める)
3 租税公課
(1)固定資産税 約2億円
(2)法人住民税 約12百万円
4 雇用 15名程度
5 地元との共存共栄 地元行事への参加 団体への加盟など
以上クリーンエネルギーの開発であること、並びに地域への大きな経済効果が見込まれることにより地熱開発促進を陳情するものです。
道路の新設工事や基盤整備工事は一時的なもので、しかも国立公園の中の森林が失われます。
作業員の宿泊需要も一時的に発生しますが、温泉観光客 に比べれば実にわずかな瞬間的な宿泊です。
霧島市に発電所の固定資産税が納入されますが、ホテル旅館の固定資産税や入湯税のほうが持続的ではるかに大きな金額です。
観光産業はすそ野が広く経済的にも雇用についても大きな影響を持っています。
バラ色の経済効果はすべて地熱発電開発が安全で自然破壊もなく温泉枯渇もないという大前提の上になりたつものです。