霧島は観光の町です。

観光は霧島の雇用の重要な位置を占めています。

平成16年事業所企業統計調査
平成16年事業所企業統計調査

右図の人口割合をみれば鹿児島県は第三次産業の人口が多く、霧島、牧園地区は特にその割合が大きいことが解ります。地域全体の雇用は観光産業が支えているといって過言ではありません。

また「じゃらん」の統計では旅行目的は温泉が最も多く、もし温泉の悪評がネットで広がれば、たちまち観光客の減少につながります。温泉は41~42度くらいが適温でわずか3度の上下でも熱すぎたりぬるすぎたりしますので、しっかりした管理が必要です。霧島温泉には創業90年、100年といった旅館もあり先祖代々温泉を引き継いで運営しています。神様の恵み「温泉」は、これからも保養休養のためのお客様のためにあります。

観光客の第一の目的は温泉です。

新燃岳の噴火
新燃岳の噴火

 

  新燃岳と温泉

 

2011年126日、新燃岳で突然爆発的な噴火がありました。日頃、桜島の噴火を見慣れている私達でも想像をはるかに越えた自然の活動に驚かされました。

実は兆候らしきものが前年からありました。ある旅館では9月頃から温泉の勢いが弱まってきて温泉量が足りなくなり11月には浚渫工事をしました。温泉の減衰は同時に何軒も起こっています。また反対に20年以上も使っていない温泉井戸が突然轟音と共に噴出をはじめ、その大音響に客室が使えなくなったホテルもあり正月前の工事に苦労されたそうです。ある旅館では噴火前に温泉の温度が上下に激しく変動したり、また別のホテルでは温泉の色が見たこともないような緑色に変化したという報告もあります。西郷隆盛が入浴した老舗旅館の栗野岳温泉南州館の永峯さんは「新燃岳とうちの温泉はつながっていて連動している。」と、日頃から関連性を話されていました。

 

今度の新燃岳噴火の様子から、元和光大学の生越忠教授の主張のように深層や浅層に関係なく温泉や地下水などは相互に影響があるように思えました。貯留層は本当に独立して存在しているのでしょうか。地熱発電の開発業者は断層や深度が違うので既存温泉に影響はないと説明します。しかし1993年、NEDOがえびの市の白鳥温泉近くで掘削した調査井戸は、潤滑油が白鳥温泉に混入し、半年間も温泉営業が停止したという大事件になりました。私達は最近この事件を知りましたが、地熱発電の大規模な井戸は人知を越えたところで様々な影響があるような気がします。

 

観光の社会性について

 

ところで新燃岳の噴火で、たくさんの報道関係者が霧島温泉に押し寄せました。報道の中継車があちこちに陣取り、新聞やテレビの全国ニュースで噴火の様子が連日連夜報道されました。しかし毎日爆発的な噴火があるわけでもなく、また降灰はほとんど霧島温泉には無かったのですが、当初の爆発や風下の宮崎県側の降灰をニュースで見た人は「霧島温泉では道路も通行できずホテル旅館は営業していないだろう」と勘違いされました。その結果、宿泊などの予約キャンセルが相次ぎ、しかも新しい予約は途絶えました。そして霧島温泉から観光の人影がなくなりました。霧島温泉の入込観光客は年間420万人あり、その観光交流人口がもたらす波及効果は、飲食店やゴルフ場などの観光施設だけでなく、商店や農業、食料品や消耗品などの商業取引、運輸交通や金融・保険業に至るまで霧島市のみならず鹿児島県全体に及んでいます。

 あらゆる場面で観光の経済活動が休止しました。

雇用が問題となり営業継続が問題となり、「噴火は長期間にわたる」という学者のコメントで社会喪失という不安が生まれした。それを受けて霧島市や鹿児島県から何回も議員や知事が視察に来られました。政府からも海江田経済産業大臣などが視察にお見えになり私達は必死に窮状を訴えました。降灰や農生産物など目に見える被害は援助もありますが、建物の被害ではない宿泊キャンセルなどの風評の被害は救済方法が難しいのです。観光客が消えるということは、まさにすべてが無くなる事だと実感されました。

 

社会問題としての地熱発電

 

今はまた観光客も増えてきています。昨年11月に行なった霧島温泉旅館協会と志學館大学共同の市場調査では「霧島の来訪目的は温泉が89%」と出ています。温泉のありがたさ大切さがほんとうに身にしみます。温泉の適温は41度ですが38度に下がると、もうぬるくて入れません。地熱開発の影響で、もし温泉の温度や量が不足してお客様のクレームが発生したり、えびの高原の露天風呂のように経営破綻したり、またそれを報道されたらどうなるのか。白鳥温泉は多額の損失補償を受けていますが、一軒の旅館だけでなく霧島温泉全体の被害となったどうなるのか。それは新燃岳のように霧島だけではなく鹿児島県全体の大きな社会問題です。地熱開発業者は霧島に進出して新しく起業するのですから十分な説明と理解の上に私達と共存共栄で事業を進めるべきです。建設業者や商工会議所などへ「開発の利点」を説明する前に、既存の発電所とえびの高原の温泉枯渇に関連はないか、温泉を営む私達に納得のいく説明をすべきです。原発でも問題になりましたが環境影響調査でブレーキとアクセルを同じ側が操作するのは理に合いません。なぜ地熱開発業者が環境影響調査をするのでしょうか。公平中立のために利害関係から離れた第3者機関が環境調査をするべきで、開発援助の予算を計上するなら国も責任を負うべきです。自然を相手にした万一の大規模災害に対し一企業だけで対応できないはずです。

 

 

霧島国立公園

 

霧島は美しい自然に恵まれ、たくさんの種類を誇る豊かな温泉があります。市町村合併で生まれた霧島市の名前は霧島国立公園からとられ、古事記に記された天孫降臨(アマテラスオオミカミの孫ニニギノミコトが霧島の高千穂峰に降臨されて日本を開いた)という古い伝説の上に立っています。昭和初期には鹿児島県と宮崎県合同での両県民あげての大きな国立公園誘致運動がありました。私の祖父も毎日誘致のためのハガキを書いたそうです。当時大手出版社であった改造社の山本社長は鹿児島出身で誘致運動にたいへんな尽力をされ、有名な与謝野鉄幹、与謝野晶子夫妻を霧島に招いています。このような大規模な運動の結果、霧島は雲仙などと共に日本で初めて国立公園に指定され、その時の先人達の喜びはたいへんなものだったと聞いています。こうした大きな努力を経て霧島が国立公園として保護された特別な意味を私達は忘れることはできません。

しかし霧島でも潤いのある森林は徐々に失われています。私達は「NPO法人霧島ふるさと命の森を作る会」を結成し自然植栽の植林活動を続けています。今年から霧島市と共に1010万本の森林再生プロジェクトも始まりました。一方で昨年は名古屋でCOP10が開かれましたし、国連は今年を国際森林年と定めています。いまや自然環境そのものが世界中で重宝され、しかも大きな観光資源となっています。国立公園とは日本の代表的な景勝地を国家で指定し自然保護を目的としたものです。霧島国立公園の森林や景観は霧島市の宝としてさらに保護保全が必要なはずです。昨年は霧島温泉に皇室や環境大臣をお招きして「自然公園ふれあい全国大会」が盛大に開催されました。そして霧島屋久国立公園を霧島錦江湾国立公園として再認識することが発表されました。環境省には厳然として国立公園全域を保護し、いかなる理由を問わず構築物などの建設を許して環境破壊を看過しないよう願うばかりです。

 

 

今すぐ地熱発電が必要でしょうか

 

日本独自の文化である和室と温泉。そして芸術的な料理ときめ細やかなサービス。洗練された美しい日本の旅館文化は観光立国の柱のひとつです。しかし温泉あっての観光旅館であり温泉のない旅館は経営できません。私達は地熱開発に10年来反対していますが、霧島では3万kwの第2地熱発電所の計画が着々と進行しています。「今すぐ」霧島国立公園の中に巨大な地熱発電所が必要でしょうか。影響のない誰もが納得できる発電所を将来の技術革新まで待てないのでしょうか。

観光の世紀

 

●米国の未来学者ハーマン・カーン氏は、21世紀は「観光の時代」であり、観光産業が世界最大の産業になると予言しています。世界観光機関によると、全世界の観光による消費額は2020年には1995年の約五倍の規模に拡大すると見込まれています。

 

●観光産業のすそ野は広く、経済効果は大きなものがあります。

1.平成19年度の国内の旅行消費額は23兆50百億円であり、これによる直接の雇用創出効果は211万人と推計されました。

2.上記旅行消費がもたらす生産波及効果(直接効果を含む。)は53兆1千億円(付加価値効果は28兆5千億円)。これにより441万人の雇用創出効果があると推計されます。これは、それぞれ我が国の国内生産額の5.6%(付加価値効果に対応する国内総生産(GDP)の55%)、総就業者数の69%に相当します。

 

 

 ● 鹿児島県の経済基盤(鹿児島県ホームページデータから見た鹿児島)

 

 県内総生産額 

 第一次産業  4%   第二次産業19.4%  第三次産業76.5%

 

労  働   

第一次産業 11.6% 第二次産業21.2%   第三次産業66.7%

 

伊藤知事は観光立県をめざして観光交流局を設立し観光予算を増額しました。2008年の観光消費額は4700億円を越え、上記のように鹿児島県は観光立県として着実に進んでいます。今後、新幹線全線開通や高速道路の無料化が進むと、今まで以上に大都市からの観光客の増加が期待され、しかもアジア諸国の所得水準の向上やビザの自由化により欧米のような「アジア圏観光の時代」が予想されます。今まで本土最南端という地理的なハンディにより観光開発が遅れた反面、自然景観や温泉が守られたという経緯もあり、今後美しい景観や豊富な温泉は重要な観光資源として観光鹿児島の大きな財産になります。

 

●観光客は交流人口としての消費者となり、地域に豊かな将来を期待できますが、時代の流れ、趣味嗜好の移り変わりに大きく左右されます。私たちはふるさとに誇りを持ち時代に左右されない真実の資源を大切に守り育て、継承しなければなりません。そのためには「観光はこの県のリーディング産業」として発展することを常に自覚し、観光の立場に立った環境のあり方、農業や林業のありかたを模索しながら持続する経済発展のしくみを考える必要があります。それは交流人口が求める地域づくりであり、感動づくりです。観光(交流人口)という大きな枠の中での商業 農業 林業のあり方を考えるとき別の視点からの経済活動が生まれるはずです。