鹿児島県エネルギー政策課が主催する研修会に参加しました。土湯温泉は東日本大震災と原発事故という大きな災害の影響で観光客が激減し、16軒あった旅館のうち5軒が廃業するという事態となり、ここからの復興をめざして、まちづくり会社「株式会社元気アップつちゆ」が2012年に設立されています。
加藤勝一社長の御案内でバイナリー発電の事業を研修しました。
1 土湯温泉では温泉施設の90%が組合からの給湯で、組合で管理運営している。
2 源泉は4本。発電は平成18年に掘削した16号源泉を使い440kw/hの発電能力。
3 蒸気と熱水の割合は7:3。両方を使ったバイナリー発電で350kw/hを売電。
4 利益は年配者の交通費や学生の通学定期券にもあてている。
5 発電に使う温泉は既存の井戸を使い、発電の後はそのまま給湯している。
6 発電後の熱水を利用したえびの養殖事業も手掛け順調に進んでいる。
㈱元気アップつちゆ の加藤勝一社長の誇らしげな講演に心から感動しました。
震災と原発事故という大災害をどのように乗り切るかが大きな課題で、今でも外国人観光客はなく、普通の温泉観光資源だけでは競争に勝てない。そこで「産業観光」という方針を打ち出して、他のどこにもない土湯温泉だけのものとして「バイナリー発電」を選んだ。福島県の観光協会や組合など、どこも地熱発電反対の中、大手資本の参入をすべて断って、組合自らの手で独自のバイナリー発電を推進し、すべての人が納得するものを作り上げた。
売電や発電は目的ではなく手段、大きな目的は観光振興、土湯温泉の復興である。施設見学の宿泊客は毎年増加し、今後エビの養殖をさらに増やして土湯温泉の名物とし、またスマートシティの構想を目指している。
というお話でした。
加藤社長の熱心でわかりやすいご案内とすばらしい講演に心から感動いたしました。大震災と原発という想像もできない大変な状況からここまで来られたのは、言葉にできないくらいのご苦労があったはずです。しかも未来に向けてさらに前向きにスマートシティの構想をお持ちとの話で心から敬服しました。
旅行人山荘 会議室において日鉄鉱業(株)から野ノ湯温泉地熱開発の説明会がありました。出席者は下記の通りです。(敬称略)
日鉄鉱業株式会社 資源開発部 町田 高山 石川
霧島温泉を守る会 旅行人山荘 蔵前
さくらさくら温泉 中谷
妙見石原荘 石原
湯之谷山荘 馬場
三洋工業 山元
新燃荘 岩本
日鉄鉱業株式会社の町田さんから「野ノ湯温泉地熱発電開発可能性調査」という書類をいただき丁寧な説明がありました。「野ノ湯温泉地区に地熱資源の存在を推定できたのでさらに進めてモニタリング用の観測井および調査井を掘削する。生産井に転用する場合がある調査井は最大3本で最終口径158.8mm 深度2000m。すべて霧島市の条例に従って手続きを進める」という説明でした。大きな地熱開発ですので私たちは万が一を心配し次のような話し合いとなりました。
◎ 万が一、どこかの既存温泉の減衰など温泉の変化があった場合、守る会や旅館協会全体の問題として温泉井戸の調査や対応を協議する。
◎ 今後、地熱開発が進むような状況でも、以前の約束の通り創価学会跡地では地熱開発の掘削はしない。その文書も取り交わす。
◎ 明らかに今回の地熱開発による問題が発生した場合、直ちに開発を中止し、十分な補償をする。
◎ 守る会会員が温泉モニタリングを始める場合は日鉄鉱業は協力をする。
◎ モニタリング用の観測井の情報はオープンとする。
以前とは違って終始なごやかな話し合いでした。私たちも協力し合いながら、それぞれ納得のいく開発が進められるように願っています。
温泉バイナリー発電事業説明会に出席しました。概要は次の通りです。
1 事業主体 (株)ESR 平成25年2月26日設立 資本金1000万円
東京都港区北青山3-6-7青山パラシオタワー11F
2 掘削ボーリング 前田産業 用地コンサル 毎日不動産
3 20kw バイナリー発電 大きさはコンテナ1台分
ボーリングは65mm口径 300m掘削を予定している
蒸気は放出するが消音器をつける
給水は新たに井戸を掘る
20人くらいの地元の人たちが集まり熱心に聴いていました。そして場所がスパヒルズホテルの近くの別荘地で子供たちの通学道路のすぐ隣でもあり心配しているという声や給水用の水の井戸が近くの井戸に影響を与えないか、また騒音や放出の蒸気に問題はないか、排水は河川に流して大丈夫かという質問などが出ました。
指宿白水館で地熱発電の講演会がありました。
講 師
日本温泉協会会長 大山正雄
元草津町町長 中澤 敬
日本温泉協会理事 遠藤淳一
日本人は温泉が大好きで宿泊トータルで1億2000万人が毎年利用される。その経済波及効果は大変大きく、また海外からのお客様も喜ばれて観光立国の政策に貢献している。しかし温泉は有限で、どこの温泉観光地も温泉は不足している。そこで温泉法の規則に従って、争わないよう加減しているのが現実である。ところが地熱発電は温泉法の範囲外で旅館の100倍1000倍の温泉を一挙に汲み上げる。何万年もかけて蓄積された温泉を少しずつ使っている現状から、たとえ深さが違うと言っても、地熱発電は一瞬のうちに大量の温泉をくみ上げるのだから枯渇が心配される。今、総発電量の0.2%が地熱発電だけど、誤差の範囲でしかないわずかな発電量のために貴重な温泉の存亡をかけていいのだろうか。政府は全国どこでも地熱発電を始めるのでなく、地域の合意の元で、地熱発電をできる温泉地、できない温泉地と分けて進めるべきである。
出席者
日鉄鉱業(株) 松永 潤 石川知明 古野正憲
深澤秀明 會沢辰介 森田誠也
霧島いわさきホテル 川内博史 平智之 四元俊一 宮田修 外園隆人
湯ノ谷山荘 馬場廣一郎
妙見石原荘 石原大佑
三洋工業(株) 山元弘親
南州館 永峯周作
メビウスインターナショナル(株) 大橋一郎
旅行人山荘 蔵前壮一
白水超地区地熱開発構想について約1時間半の説明会および質疑応答がありました。
1 開発範囲は 大霧発電所近くにNEDOが掘削した調査井戸SZ-3 SZ-4SZ-5周辺に限り手洗い噴気地帯やSZ-1の付近は開発しない。
2 一度に3万kwの発電ではなく、まずは15000kwの能力のものを建設し、モニタリングなどを実施して状況を確認した後、次の15000kwを増設する。
3 SZ-3 SZ-4を使って2000kwの試験プラントから始め、観測井戸を6箇所掘削する。
4 現在も大霧発電所のモニタリングを行っているが(株)静環検査センターに委託して公表している。
5 調査 開発 はすべて行政も入れた温泉事業者との話し合いの合意の元に行う。
以上の説明の後、質疑応答となり紳士的な整然とした説明会でした。
電力中央研究所 主任研究員 窪田ひろみ先生の講演
地熱開発における温泉資源へのリスク管理と相互理解・地域共生をどのように進めるかという極めて難しい問題提起で、ヒアリングやアンケート調査結果による説得力のある現実的な内容でした。
地熱発電の課題は
1 資源の8割が国立公園内にある
2 実際に掘ってみないと発電量がわからないし掘削失敗もある
3 温泉や自然環境へのリスクがあり地元調整が困難な地域は開発は進まない。
温泉資源については源泉状況、事業者により保護・管理実態が異なり影響判定基準や修復対策の統一は難しい。影響とは何か。その定義に関する共通認識を協議確認する必要があり、モニタリングがきわめて重要である。
共生をはかるためには
1 温泉資源の影響判定方法やリスク評価結果の情報共有
2 万一の対策・・・修復技術、保険、保証など
3 公平公正な地域便益
4 合意形成のための継続的対話
が必要で懸念や不安をなくし相互理解の向上が課題である。
温泉団体(日本温泉協会や秘湯を守る会など)や自然保護団体も地熱開発には反対で温泉事業者が強固に反対している地域は開発は遅延しているという動向も紹介され、多数決ではなく 結論ありきではなく、地域にとってよりよい解決策をメンバーで議論し見いだし、私利私欲をいったん棚上げし、相互利益が合う条件を検討することが重要として締めくくられました。
大分県九重町はラムサール条約登録のタデ原湿原や阿蘇くじゅう国立公園のある「緑と自然の宝庫」という人口約1万人の農林業と観光の町です。また大岳発電所、八丁原発電所1号機、八丁原発電所2号機、滝上発電所、八丁原バイナリー発電所、建設中の菅原バイナリー発電所と合計157000KWの地熱発電所を有する町としても有名です。
1000年の歴史を持ち「うたせ湯」で有名な筋湯温泉に宿泊しました。宿は300年の歴史を持つという宝珠屋でした。写真は「うたせ湯」です。1月で寒かったからか観光客は少なく町はガランとした雰囲気で旅館は休業中のものもありました。
上の写真は掘削中の井戸。現在まで100本以上が掘削されています。
八丁原発電所はさすが日本一というだけあって大きな発電所です。設備そのものも大きいのですが、広大な敷地のあちらこちらに、たくさんの設備があるのが印象的でした。これらは国立公園の中にあります。昭和24年から基礎調査が開始され昭和42年大岳発電所、昭和52年八丁原発電所が運転を開始したそうです。
地熱発電についてわかりやすく説明していただきました。現在建設中の菅原地熱発電所でも反対の声があり、九電はすべての温泉の泉源をひとつひとつ調査して、モニタリングも行い、また膨大な量の協定書を作成したという説明もありました。
八丁原発電所は筋湯温泉のすぐそばにあり、発電所から分湯、給湯事業が行われています。湯坪地区28軒のホテル旅館と102戸の一般家庭。筋湯地区の29軒のホテル旅館と17戸の一般家庭。また滝上地区で34戸、寺床地区で12戸。これらで浴用、暖房用、農業用として利用されています。これらの熱水はすべて無料です。
しかし温泉ではありませんので、ヒ素の処理装置を開発して平成16年温泉供給会社を第3セクターで設立し、ここから脱ヒ素の温泉を1t40万円で供給しているということでした。1t40万円はかなり高価ですがこれは温泉に間違いありません。
なぜ1000年の歴史がある温泉地で温泉を購入しなければならないのかという質問では近年旅館も増えて温泉量が不足しているとのことでした。(当初7軒のホテル旅館だったが、地熱発電所ができると熱水をもらえるというこで29軒に増えたという話も聞きました)
暖房も風呂も無料、また道路も整備され、筋湯温泉は地熱発電所と運命共同体という感じです。公共施設もりっぱな造りです。しかし九重町役場職員の話では、日本一の吊り橋やスキー場など整備してあるのに宿泊観光客が少なく町の人口も減少しているのが問題ということでした。なぜ宿泊観光客が少ないのか、深く考えざるをえませんでした。
引き続き霧島市が主催した学習会が開催されました。
メンバーは次の通りです。
1 学識経験者 鹿児島大学名誉教授 大木公彦
2 地元住民 高千穂地区自治公民館長 高貝 隆
3 地元住民 三体地区自治公民館長 山口正憲
4 地域審議会関係者 牧園地区地域審議会長 山口茂喜
5 観光団体関係者 霧島市観光協会長 徳重克彦
6 経済団体関係者 霧島市商工会副会長 大庭 勝
7 霧島温泉旅館協会 会長代行 花俣幹男
8 温泉保護団体関係者 霧島温泉を守る会 藏前壮一
9 自然保護関係者 霧島市環境対策審議会 石窪奈穂美
10 市長が必要と認める者 国際ホテル技術顧問 大窪三郎
そのほかオブザーバーとして霧島市から生活環境部 商工観光部 牧園支所長 日鉄鉱 環境省えびの自然保護官 鹿児島県企画部エネルギー政策課
事務局は霧島市企画部です。
今回も日鉄鉱のコンサルでもある産業技術総合研究所の野田哲郎氏の講演から始まりました。前回質問が出た「地熱発電のメリットとデメリット」それから「地熱は再生可能エネルギーか」の疑問に答えられた後、温泉の利用状況及び温泉と地熱発電の影響を講演されました。温泉も地熱も生成能力には限界があり能力以上の採取は控えるべきで、そのために帯水層の把握とモニタリングおよび管理計画の策定を提案されました。
次に (有)国際温泉研究院 濱田眞之氏が「海外事例から見た温泉と地熱開発について」講演されました。世界における日本の位置と海外の地熱発電所の事情、悪影響事例、賛成や反対の事例などで、最後に温泉保全に有効な発想として
1 聖地としての山と温泉 2 神話的所有権 3 伝統的な温泉の価値 4 環境への影響評価 5 モニタリング制度の確立 6 影響関係の検証 7 地震誘発の可能性調査 などを提案されました。
いずれも大切な事で霧島ではこれをどのように認識し実施するか、具体的な行動が必要だと思いました。
霧島市が主催して学習会が設立されました。
メンバーは次の通りです。
1 学識経験者 鹿児島大学名誉教授 大木公彦
2 地元住民 高千穂地区自治公民館長 高貝 隆
3 地元住民 三体地区自治公民館長 山口正憲
4 地域審議会関係者 牧園地区地域審議会長 山口茂喜
5 観光団体関係者 霧島市観光協会長 徳重克彦
6 経済団体関係者 霧島市商工会副会長 大庭 勝
7 温泉保護団体関係者 霧島温泉を守る会 藏前壮一
8 自然保護関係者 霧島市環境対策審議会 石窪奈穂美
9 市長が必要と認める者 国際ホテル技術顧問 大窪三郎
そのほかオブザーバーとして霧島市から生活環境部 商工観光部 牧園支所長 日鉄鉱 環境省えびの自然保護官 事務局は霧島市企画部です。
第1回目は日鉄鉱のコンサルでもある産業技術総合研究所の野田哲郎氏が「地熱発電とは何か」 その後環境省自然環境局国立公園課の吉松重記氏が「国立国定公園内における地熱開発」と題して講演されました。
昭和41年 十和田八幡国立公園で松川発電所が操業したのが最初で昭和49年 国立・国定公園内では全国で特別の6カ所をのぞき新規の開発を推進しないと通知を出し開発は止まっていたが、平成6年の規制緩和により平成8年、霧島国立公園内で大霧発電所が操業を開始したそうです。
さらに今回、平成24年の規制緩和により国立公園内でも普通地域はもちろん、第2種、第3種特別地域でも優良事例は認められる事となり、8~9割は地熱開発が可能になったそうです。地熱開発はあくまで地元の合意形成が基本で環境省は裁定はしないそうです。国立公園内に発電所ができるのは世界でも珍しく日本とケニアだけだと言うことでした。地熱発電は再生可能エネルギーだろうかという質問には生産井戸を次々と何本も掘るが、養蜂のように後でまた使うこともあるという説明でした。
3月26日 鹿児島大学名誉教授 大木先生はじめ15名で山川地熱発電所を視察しました。
発電所での説明の概要は次の通りです。
山川発電所は集約型の基地で土地の改変も少なく、高温蒸気を使っているので設備も小型化にしている。
地熱発電所は自然景観に恵まれた場所などに開発場所が限られハイリスク・ローリターンであるが、全量買取制度により今後参入が増えると思われる。しかし調査・開発・運用には高い技術を要し、今まで以上に温泉事業者の温泉枯渇の心配を解消することが必要となる。
1 12本の井戸があるが現在使っているのは6本。発電能力は当初3万kwあったが地下エネルギーの減衰により、現在は15000kwから14000kwになっている。
2 近年、蒸気対熱水の割合が変わってきて熱水が多くなり好率がよくない。
3 新しい井戸を掘削するには大きなコストがかかり難しい面がある。
4 硫化泉のスケール対策、またPh値が5なのでPhコントロールも必要だが現在その設備は稼働していない。(難しい)
5 井戸からの蒸気量は225t/h。熱水は重金属やヒ素を含んでいるので還元井に戻している。
6 熱水は重金属やヒ素を含んでいるので利用できないが蒸気は余ったものを農業に利用できればいいと思っている。しかしそのまま渡すと電気事業法に抵触するので、地熱発電所の中にタンクをつくりそこから蒸気を提供する方法となる。農家は協同組合を作り発電所の外にタンクを作り組合で管理運営することになる。現在は熱水や蒸気を農業などに利用してはいない。温水プールなども自分の温泉を使っている。
土地の改変も少なく設備も小型という話でしたが、それでも大規模な工場といった印象でした。環境省はこのような設備を国立公園内に許可するのでしょうか。
温泉熱発電とは既存の温泉施設に使用する泉源、あるいはまた温泉入浴後の温泉を使った発電で、地熱発電とは違い、高温、大量の温泉を使わない小規模なものです。
いま各地で国から補助を受けていろいろと実証実験が行われています。霧島温泉旅館協会、日鉄鉱、霧島市とともに3カ所の研修と勉強会に参加しました。
平成25年10月22日~23日
新潟県 松之山温泉 カリーナ発電施設見学と説明会
こちらはバイナリー発電で現在は停止して蒸気量を有効活用するための改装をしていました。外国製も使用した予想以上の大きな設備で、かなりのコストがかかりそうで、今の段階では実用化はむずかしそうです。松之山温泉は冬期には雪が4~5mも降り積もりその対策としても地熱を利用したい意向でした。
平成26年2月4日~5日
大分県 九重町 九重観光ホテル
別府市 杉の井ホテル
(株)ターボブレードの実証実験
(株)瀬戸内自然エナジーのマイクロバイナリー発電
この中で一番期待していた瀬戸内エナジーでは社長さん自ら案内と説明をいただきました。導入はしたが温泉発電の経営は難しく次回からアメリカ製のものにしてみたいというお話でした。唯一の希望はターボブレード社のコンパクトな「湯けむり発電」でしたが実用化までは少し時間がかかりそうです。
中にはいかにも利益が出るような説明もありましたが、温泉発電はまだまだ一般に普及できるような実用段階ではありません。しかしたいへん有望な発電方法ですので、コスト面でもメンテナンス面でも今後の研究と技術の進歩を待って一日も早く実用化を期待したいと思います。
あまりにもひどい6月4日の集会でしたので、今度は「温泉を守る会」の主催で紳士的でおちついた話しあいを企画しました。いわさきホテルさんの大きな会議室を借りて、すべての市会議員さんに傍聴の招待状ををお出ししました。霧島市からも傍聴にお見えになり、話しあいは整然と行われました。
日鉄鹿児島地熱(株)と霧島温泉を守る会との話しあい報告書
2010.8.26
霧島いわさきホテル会議室において
出席者
日鉄鹿児島地熱(株) 長社長
御幸所長 他3名
霧島いわさきホテル 今村総支配人
霧島ホテル 代表取締役 堀切社長
霧島スパヒルズ 代表取締役 大橋社長
ホテル霧島キャッスル 黒木総支配人
霧島観光ホテル 藤重支配人
妙見石原荘 代表取締役 石原社長
湯ノ谷山荘 代表取締役 馬場社長
新湯温泉新燃荘 代表取締役 岩元社長
栗野岳温泉南州館 代表取締役 永嶺社長
さくらさくら温泉 代表取締役 中谷社長
三洋工業 代表取締役 山元社長
旅行人山荘 代表取締役 蔵前社長
上記の話しあいに霧島市役所企画部ほか市議会議員19名が傍聴されました。
開会の挨拶の後、今までの経緯が説明されました。
平成11年(2001)10月 NEDOから白水越地区に地熱を調査したいと霧島温泉旅館協会へ説明された。 これはあくまで地下エネルギーの調査で、発電所建設とはまったく関係がないという説明だった。
平成13年 8月9日 霧島温泉旅館協会は白水越地区の現地視察した
平成13年10月25日 硫化水素ガス中毒事件があり7人が病院に入院という大きな事件があり、霧島温泉は大騒ぎとなった。すぐにNEDOから釈明があり、安全対策を示されて、噴出試験をするときは旅館協会に事前に通知をいただくようになった。
平成13年11月11日 霧島温泉旅館協会は鹿児島大学坂元隼雄教授を招いて地熱の勉強会、また平成13年11月26日 杖立温泉 河津豊四郎社長を招いて勉強会をした。
平成14年4月15日 NEDO、牧園町 旅館協会との話しあいがあった。
ここでは、調査終了後、井戸は埋め戻す約束だったが、継続して調査する場合は例外規定により建設業者に引き渡す場合もあると説明された。また101mmの井戸だけでなく216ミリの井戸もある事が解った。また調査終了後の影響はNEDOに責任はないと発言され、旅館協会はこの説明に大きく反発した。
平成14年6月10日 霧島温泉旅館協会総会で地熱発電所建設反対の決議をしてマスコミにも発表した。当時の会長は静流荘の瀬戸口社長だった。
この間、木原 牧園町町長や町当局と旅館協会は何回も話しあいをした。しかしそこでも、あくまでエネルギー調査であって、発電所建設のためではないと強調された。
木原町長との話しあいの中で、NEDOが掘削した温泉井戸を、業者に引き継がれる時は、旅館協会も一緒になって三者間(NEDO 牧園町 旅館協会)の「協定を提携する」という約束をした。しかし、旅館協会には何の連絡もなくいつの間にか調査井戸は日鉄鹿児島地熱(株)に引き継がれていた。
平成15年4月10日 日鉄鹿児島地熱(株)吉武社長と旅館協会の話しあいがあり、吉武社長は、NEDOから引き継いだ井戸は発電所建設のためであることを明言された。
ここで初めて、調査の井戸を発電所建設に使うことが明らかにされた。
平成15年6月20日 霧島温泉を守る会ができた。
今まではエネルギー調査ための井戸と偽って大規模な井戸を掘削して噴気試験をおこない、実は地熱発電所建設を目指していた事を、守る会は、町にも県にも訴えた。
平成15年9月25日 鹿児島県議会において、おつじ義先生と桐原たくま先生の一般質問があり、地熱発電建設についてただされた。
この質問に対し迫田企画部長は「温泉地域に隣接しているから、周辺環境への配慮と地元の理解が必要」と答申があった。
平成16年 牧園町の町長選挙により前田町長が誕生した。4月13日 前田町長 および久保助役 企画課長と守る会の意見交換会をして、将来責任のもてないものに決断はできないとの町長の言葉があった。
その後、御幸所長は旅行人山荘までお越し頂いて「反対を押し切ってまで建設することはない。今後、噴出試験はしない。ただし。研究は続けたい」と約束した。
これ以降は、霧島町の烏帽子岳の地熱発電所計画について九州電力さんと守る会の話しあいになった。九州電力と守る会は実に紳士的にお互いの意見交換をしている。
平成21年4月23日 シビックセンターでの話し合いでも「反対を押し切ってまで建設することはない」という約束をして、守る会は今後の技術革新を期待すると答えている。
平成21年1月3日 日経新聞に大霧発電所隣接地に3万k発電所新設予定の記事
が大きく報じられた。
守る会のメンバーはたいへん驚いてすぐに九州電力に電話した。 九電では、計画はないし日経は取材にもきていない。という返事でした。次に日鉄鹿児島地熱社に電話して御幸所長と話をした。そのような計画はないという返事でした。御幸所長はわざわざ旅行人山荘までお越し頂いて建設計画はないと話をされた。
しかし、ここから大きく状況が変わってきました。
突然、噴気試験が始まりました。そしてそれは一年にわたり続けられました。
それから、長社長さんが霧島温泉に何回もこられて自ら説明会を開かれています。しかしながら、守る会には長社長さんからは、一度も説明がありませんでした。そしてその結果、せまい地域の中で、反対派と推進派が反目しあう結果となっています。商工会も商工会議所も一部が賛成 一部が反対で割れています。霧島温泉旅館協会も霧島市観光協会も割れています。地域や組織が一丸となって観光について地域活性化をめざす体制は崩れつつあります。
東京に本社があり霧島で開発される以上、私たちの理解を求めるのは当然なのに、長社長は私たちへの説明はしないで、建設需要や作業員の宿泊需要など利益ばかりを説明してまわられたのは、納得がいきません。
6月4日 第一回目の話しあいを日鉄鹿児島地熱さんの方で企画されましたが、事前の打ち合わせは無視されて一方的な建設決起集会となりました。これには苦言もあります。
以上がこれまでの経緯です。
6月4日は人が集まりすぎたため、それから地熱発電の説明はエネルギー資源の説明で地域振興は付帯的なものである。という御幸所長のコメントのあと、質疑応答の形に移った。
質問 1 1981年発行の「牧園町郷土史」に地熱開発のページがあります。「交換熱水は地域暖房や温泉給湯、農業用温室、養魚など幅広く使われ産業振興はもとより生活の向上に役立ち・・・」とありますが具体的にはどこにどのように使われたのですか。今度の発電所建設では、商工会議所でも熱水の利用を期待していますがそのような計画があるのですか。
日鉄鹿児島地熱(株)の回答(以下 回答とする)
1981年には日鉄鹿児島地熱(株)はできていないので解らない。
協定書もない。国の規則で目的外での利用は不可能だった。希望や要望はあったが
牧園町の協力がなかった。熱水は、できる範囲で供給するが自ら給湯事業はしない。
日鉄鹿児島地熱(株)の作成した「地熱PR集」最終案には地熱の多目的利用として、浴用はもちろんのこと農業・漁業・工業・道路融雪などさまざまな目的に使うことができるという用例がたくさんありますが、これは地熱発電の熱水ですか。いかにもそれらしく書いてあります。
回答 これは地熱発電の熱水ではありません。それぞれ自分たちで掘削した温泉です。
質問2 住友金属鉱山(株)資源事業部の山の城地区地熱開発調査報告書について。
報告書は影響があるとしている。影響がないという御社はもう少し謙虚になるべきでは
ないか。公害については、たとえ1%でも危険性があれば、着手しないというのが原則
ではないのか。
回答 「住友社」は大会社だが地熱開発にまったく経験がなく、地表調査だけで本格的な調査確認をしていない。この報告書には印鑑がないので信用できない。「住友社」は経済性がないので撤退したにすぎない。「住友社」の誰がやったかも解らない。矛盾もあり、まじめなものではない。
しかし両者の意見のへだたりは大きく、「私たちを信じてくれないなら、話しあいの意味がない」という長社長の言葉でした。
質問3 平成21年10月22日に作成された「地熱開発への懸念に対する見解について」の中に「国内13箇所の地熱発電所においては、周辺温泉に具体的な影響を与えたという報告はない。」とあります。NEDOは他の地域のことは知らないし、地形も違うのだから参考にならないと回答だったが、温泉に影響があったとされる様々な報告があります。
1 鹿児島大学の坂元教授の手紙の説明
2 筋湯温泉について 週刊ポストのスクープ記事 黒川温泉の地熱発電反対運動では「隣町の筋湯温泉が枯渇している」と書いてある資料の説明。
3 第077回国会 災害対策特別委員会第1号 元和光大学 越生忠教授の陳述の説明
4 岩手大学名誉教授の後藤達夫先生「滝の上温泉と葛根田地熱発電所」の説明
5 早稲田大学名誉教授の黒木三郎先生の「地熱発電所と環境影響評価法」の説明
6 和光大学の越生忠教授の地熱発電所の影響の研究の説明
7 日本温泉協会理事 中澤兆三氏の「社会問題としての地熱発電」の説明
以上の説明をした。またスクリーンでは熊本日々新聞で大学教授が「地熱発電所は影響がある」事を報道していることを示した。
影響があるとする、これらの報告があるのに「報告はない」といえるのか。
回答 それらは学術論文ではないので信用できない。筋湯温泉は今も活気がある。
霧島温泉でもこの14年間どこにも影響はない。澄川温泉や赤川温泉の土砂崩れは脆弱な地層によるもので地熱発電所によるものではない。
質問4 調査井戸は何本掘ったのですか。
回答 いま正確には解らない。大霧発電所は19本で始まり、25本掘削して今使っているのは20本です。
今まで40本50本掘って毎年新しい井戸を次々に斜めに掘るらしいけど、とても心配です。第2地熱発電所は、いまでも規模や場所を知らされていない。山川地熱発電所の井戸は斜め堀で山川港の下まで来ているらしい。
回答 丸尾まで斜め堀りすることはありません。具体的にどこに3万KWの発電所をつくるかは決定していない。第2発電所は大霧発電所より南方面になる予定。建設を黙って進めることはない。
質問5 温泉資源の保護保全の施策が必要である。神奈川県や大分県など温泉先進地は条例などで温泉保護の政策をとり有名観光地に地熱発電所はない。県にも保護を訴えて開発を抑制して欲しい。またせっかくの国立公園の中を開発して良いのか。なんのため国立公園と定めたのか。不要不急の自然破壊の開発工事はやめてほしい。地熱発電所は霧島の自然のイメージを壊してしまう。
温泉枯渇は霧島だけの問題ではない。鹿児島県全体の問題です。
回答 地熱発電所は不要不急の工事ではない。温泉利用は国民全体の権利である。
国立公園の自然を壊したくて地熱発電所を作るのではない。国立公園には規制法がある。井戸は900m以深しか掘削できないことになっている。坂元先生は温泉を守る上でも調査するべきと言われた。
質問6 日本の電力需要はピークを過ぎ、しかも原発は今後14基できるし太陽光 風力発電もどんどん開発されるのに、これ以上電力が必要なのか。反対を押し切ってまで作ろうとするのはなぜか。九州電力は地熱発電の電力を必要としているのか。商工会は建設需要を期待しているが、発電所建設という特殊工事は地元ではできないはずだ。
回答 技術は東京、福岡の大手業者にあり設計、管理監督など大手業者だが、できるだけ地元にも発注します。地元にいくらの発注額になるか答える理由はない。
質問7 地熱発電は5年前で全体の0.05%の発電量。地熱発電のために霧島町に九電、NEDOが調査目的で試掘したが、温泉量の減少や温度低下となった。霧島町は温泉井戸を掘り直したが、今でも温泉は不足して再度堀直す計画らしい。地下の事は解らない。原因は特定できないまま霧島市に合併となっている。
回答 烏帽子岳のことはコメントできない。今まで大霧発電所ができて以来どこにも温泉に影響はない。これからも慎重にすすめるつもりだ。
NEDOは温度の調査はするけど、温度が下がったことを認めない。影響があったということは認めない。仮に影響を認めて、影響があってから調査を中止しても手遅れである。
温泉の枯渇だけが問題なのではない。温度が2度下がったらもう営業は困難である。
質問8 具体的にはどこに第2地熱発電所を建設するのですか。
回答 発電所の場所は山の城温泉から南西一帯を考えているが、特定はできない。今後の調査による。NEDOの調査より広い範囲を検討している。調査は大学の先生たちの指導も受けながら進めたい。
質問8 第2地熱発電所の建設予定地は水源地が多いのですが大丈夫ですか。
回答 水源地については河川法という法律を守って建設をやる。
予定時間を過ぎていますので、ここで終わらせていただきます。旅館はどこもギリギリの温泉量で経営していますので温泉については神経質であることをご理解いただきたい。
以上で終了しました。えびの高原と水源かん養保安林については時間切れでした。
会議全体を通じて両者の意見のへだたりは大きく、この会議で理解を深めあう事はできませんでした。しかし、「温泉は大切なもの」「自然破壊は許されない」という認識は一致していますので、どこかに妥協点はあると信じます。できるだけ強行な活動は控えて、それぞれが安心して本来の仕事ができるよう今後も話しあいを続けていきたいと思います。
日鉄鹿児島地熱(株)御幸所長から話しあいをしたいという申し出を受けて、事前に大霧発電所の日鉄鹿児島地熱(株)事務所で打ち合わせをしました。にもかかわらず、それは全く無視された一方的な進行の集会でした。100席くらいの会場に、温泉を守る会に与えられた席はわずか4席。鹿児島県を代表する大きなホテルの社長さんや支配人さん達が立ち見という屈辱でした。しかも反対の質問や意見は「時間がない」と途中で打ち切られながら、建設推進側の意見はいくらでも発言を許すというまさに建設推進集会でした。
平成21年 8月21日
陳 情 書
霧島温泉地域の新たな地熱発電所建設に
慎重な対応を求める陳情
霧島市議会議長
西村新一郎 様
現在、霧島の大霧地区には3万kwの地熱発電所が稼働していますが、さらに、日鉄鹿児島地熱㈱および九州電力㈱は霧島温泉をはさむような形で白水越地区と烏帽子岳地区の2カ所に新しい地熱発電所を建設しようとしています。地熱発電所は広大な自然林を開発し、莫大な温泉を消費します。私たちはこれを深く憂慮し、何回もの話し合いを行っていますが今の段階では発電所建設に対し下記のような不安が残っています。今後も第三者を交えた環境調査を含めて情報公開や協定事項について協議を続けていけますよう、慎重なご配慮をいただくことをお願いいたします。
(1)地熱発電は霧島温泉に重大な影響を及ぼす危険がある。
地熱発電所は1500mから2000mもの温泉井戸を掘り、それぞれの井戸が莫大な温泉を消費します。還元井戸に戻すとしながらも地下深部のことは予測が困難でありマグマや地下水の動向は解明されていません。従って万一温泉枯渇が起こった場合でも原因の立証ができない訳ですが、世界中でまた全国各地で温泉への影響があったことが報告されています。
平成9年、住友金属鉱山株式会社資源事業部は日鉄鹿児島地熱㈱が開発予定の地区と霧島温泉郷地区間に断層があることを否定できず、早期に影響を与える可能性があると報告書を出しています。現在営業中のホテル旅館の温泉や水資源、また関平鉱泉の枯渇などがたいへん心配されます。一方、九州電力㈱が開発を予定している烏帽子岳地区は霧島に残された数少ない自然林で絶滅危惧種のクマタカの生息地であり、またホテル旅館の泉源からわずか1km足らずという至近距離にあります。
(2)温泉量や泉温の低下など将来の責任は不在で何の保証も示されない。
地熱発電所は、温泉が無限に存在するという前提です。しかし温泉は決して無限ではありません。温泉は数十年の歳月を経てゆっくりとしたサイクルで作り出されるといわれます。近年のボーリング技術の発達で、温泉の掘りすぎによる温泉枯渇の現象は全国で問題となっています。温泉の量や温度などにいったん影響が出た場合、もはや回復は困難で失われた自然の温泉は二度と帰ってこず、しかも原因の立証は不可能です。 現在噴気が止まったえびの高原に対して誰の責任も問われず何ら現状回復の方策は示されていません。
(3)天孫降臨 霧島には開発よりも自然保護が求められる。
昭和9年、霧島は我国最初に国立公園に指定されました。天孫降臨の神話を持つ霧島は美しい自然に囲まれ、緑豊かな森林は観光客を癒し、霧島固有の昆虫や鳥、植物が生育しています。森林は、酸素をつくり、二酸化炭素を吸収し、水をたくわえ、土を作ります。鹿児島県にはもはや三割にも満たない面積の自然林しか残っていません。残り少なくなった森林は、霧島市全体の治山治水に大きな役割を果たしています。時代が霧島温泉に求めるものは心や体を癒す「緑あふれる、いで湯の町」であり経済効果を求めた新たな開発ではありません。現在30軒以上の旅館や保養所があり、年間100万人以上の利用者で賑わう九州屈指の温泉観光保養地として全国に名前が知られています。地元で生業を営む私たちは、この貴重な自然資源を大切に守り育てなければなりません。これからの未来を担う子供たちに安心した環境を残していくことは私たちの大きな役割です。
霧島市商工会議所などの建設促進の陳情書では建設需要が150億~200億、工事期間中8万人の工事要員の宿泊が見込まれるとしています。
しかし地元住民そして鹿児島県民にとってそれ以上に大切なものは自然や環境です。自然環境を守り自然の恵みの豊かさを維持することが、すべての公益につながるはずです。
霧島国立公園の地熱発電所計画について報告
平成11年8月10日、新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)地熱開発室より白水越地区地熱調査の説明があった。すでに大霧地熱発電所は稼働を始めていて「地下エネルギーの調査」が目的というものだった。これより10年以上にわたり霧島温泉のある牧園町で、新しい地熱発電所についての論議が巻き起こったが一時的には収束した。
しかし一市六町の合併により人口12万の霧島市となると地熱発電所建設について推進派と反対派がそれぞれ主張の声を高めるようになり平和のはずの観光地霧島が混乱を深めている。
福島原発事故の教訓は経済性を追求する科学技術の過信とリスク情報の封印、それを擁護する産官学ネットワークの存在であった。そして事故以前も事故以後も情報提供のあり方に大きな課題を残した。私たちが反省すべきは「無知と無関心」であり、自ら情報を求め批判的に検証する姿勢であった。それよりも大切なことは他に依存しないで生活できる自らの環境整備であろう。
しかし地熱開発の問題に遭遇し、危機を訴える情報提供がいかに難しく無関心を打破することにいかに問題が多いか、私たちは身をもって経験している。温泉を限りなく使用する地熱発電が再生可能エネルギーとは到底考えられないが、それを強引に推進するNEDOや大企業に霧島温泉は翻弄され続けている。
これまでの経緯について
平成11年10月15日、霧島温泉旅館協会は白水越地区の地熱調査について同意したが、牧園町やNEDOは「地下のエネルギー調査」であり地熱発電所建設とは関係ないことを強調していた。しかし資料には地熱開発促進調査とあり長期噴出試験などが記載されてあったのでほんとうに地熱発電と関係ないのか不審をぬぐえなかった。
旅館協会ではNEDOからの調査説明会を何回も受けながら、独自に講師を招いたりして勉強会を開いた。また隣町の霧島町でも烏帽子岳地区の地熱調査がはじまったが、これはあまりにも旅館街に近すぎるということで平成13年5月23日反対を申し入れるよう牧園町に要望書を提出した。
平成13年10月24日、白水越地区の作業中に火山性ガスが噴出し作業員7名が倒れるという中毒事件が起きた。地元の新聞は「数十メートル離れた場所にいた人が臭いに気づき50メートル逃げたところで息ができなくなった」と生々しく報道している。当日は霧島温泉の上空を何機ものヘリコプターが旋回し町中にサイレンが響き渡る異常事態となった。観光への影響を懸念した牧園町はホームページに「霧島温泉は安全です」というメッセージを掲載した。
平成14年4月15日、旅館協会が提出した10項目の質問状に対しNEDOから説明をうけたが、承伏できるものではなかった。「調査井は約束通り終了後に埋め戻すのか」という質問に対し、「原則として埋め戻す。ただし地熱資源開発企業または地方公共団体に限り貸与することがある」との回答。調査井の周辺影響の有無の判断については「配慮する」「影響の有無を考える上の基礎資料とする」との曖昧な回答。霧島温泉の温度低下など変化の責任については「NEDOの調査中はNEDOが対応するが発電所が建設される場合その企業が対応する」との回答であった。調査井も当初説明された坑底101mmは1本だけで後は生産井と同じ216mmのものが掘削され、埋め戻す意図は最初からなく、NEDOの「エネルギーの調査」とは地熱発電のための熱源探査であり調査井はそのまま生産井に転用することが判明した。私たちを騙してまで調査しなければならないNEDOの姿勢に大きな不信が生まれ、かねてからの心配が現実となった。
6月10日、霧島温泉旅館協会は総会において地熱発電所建設反対を決議し地元の新聞にも大きく報道された。しかし当時の牧園町長木原数成氏は建設推進に意欲的で、牧園町との話し合いはこじれ「共存共栄」ばかりが空回りした会議となった。
11月5日、NEDOは調査を終了し地熱発電にとってきわめて有望な熱源が確認されたと報告した。これを受けて日鉄鹿児島地熱(株)は地熱発電所建設のための調査を行うとした。旅館協会は町当局に対し、継続調査を認可しないよう、もし認可する場合には旅館協会とNEDO、町当局三者の事前協議をするよう申し入れた。しかし私たちの知らない間にNEDOは日鉄鹿児島地熱(株)と貸与契約を締結した。
平成15年3月28日、旅館協会から牧園町に提出された地熱開発促進調査反対の要望書について、牧園町長は「国策として取り組むもので、反対しない」と回答し意見が対立する事となったが、町長は「あくまでエネルギー調査」という言葉を変えなかった。
ところで霧島温泉のある牧園町では当時人口11000人で宿泊観光客は60万人を数えていた。従って観光産業は雇用や経済波及効果が大きく社会的にも大きな影響力を持っていたが、他の地域との競争も激しく旅館協会は行政と協力して誘客の推進をはかる必要があった。従って旅館協会と行政との軋轢は歴史のある霧島の観光に汚点を残すと思われた。私たちは議論をつくして6月20日「霧島温泉を守る会」を発足させ旅館協会とは別の組織を作った。エネルギー調査と偽って大規模な井戸を掘削して噴気試験をおこない、実は地熱発電所建設を目指していた事を「守る会」は町にも県にも訴えた。
9月25日、鹿児島県議会において、おつじ義議員と桐原たくま議員は一般質問で霧島の地熱発電所建設を取り上げた。これに対し迫田企画部長(当時)は「温泉地域に隣接しているから周辺環境の配慮と地元の理解が必要」と答申され新聞にも大きく報道された。地元とは問題提起し心から心配している私たち温泉事業者の事である。
平成16年、牧園町の町長選挙により前田終止町長が誕生した。4月13日前田町長および久保助役、企画課長と守る会の意見交換会の中で「将来責任のもてないものに決断はできない」との町長の言葉をいただいた。日鉄鹿児島地熱(株)の所長は「反対を押し切ってまで地熱開発はしない。今後噴出試験はしないが研究は続けたい。」と話され霧島温泉を守る会のメンバー全員で喜びをわかちあった。また烏帽子岳に地熱開発を予定している九州電力も話しあいの中で「反対を押し切って地熱開発を促進することはない」と明言され、これで地熱発電所建設の問題は落着したと私たちは素直に喜んだ。
しかしここから大きく事態が変わった。
平成21年1月3日、日経新聞第一面に大霧発電所隣接地に3万kwの地熱発電所新設予定という記事が掲載された。九州電力に問い合わせると「計画はないし日経は取材にも来ていない」という返事であったし、日鉄鹿児島地熱(株)も「そのような計画はない」という返事であった。
しかし反面、日鉄鹿児島地熱(株)の長 久社長(当時)は4月から精力的に霧島市内にある建設会社などの企業や団体を訪問し建設推進の説得活動を開始している。その結果10月9日の霧島市議会に5つの団体が陳情書を提出し、それが議会で採択という結果となった。また守る会のメンバーの中には様々な圧力をかけられて反対運動から離脱するという事態も生じた。そして商工会議所も商工会も霧島温泉旅館協会も霧島市観光協会も経済効果(建設需要や交付金、作業員の宿泊需要など)か自然保護、温泉保護かで意見が割れ、地域が推進と反対に別れて感情的な対立となり霧島温泉に社会的な混乱が始まった。
平成22年6月4日、御幸所長(当時)から日鉄鹿児島地熱(株)主催で話し合いをしたいと打診があった。初めて長社長とも話ができるということで私たちは喜んで引き受け、所長とは会議の前打ち合わせまでしたが、実際は建設促進決起大会のような会合であった。100席のうち私たちに与えられた席は4席で後はすべて推進派が占めた。鹿児島県を代表するような大きなホテル旅館の社長や総支配人が立ち見という屈辱であった。県会議員や市会議員も出席していたので「反対派は少数」を示唆するデモンストレーションであった。私達は誤解を危惧し8月26日今度は霧島温泉を守る会主催で話し合いの場をもった。ここでは両方が落ち着いて話ができるよう大きなホテルの会議室を用意し、すべての市会議員を招待した。しかし日鉄鹿児島地熱(株)と私たちの意見の隔たりは大きく同意できる状況ではなかった。一部の市会議員は今でも霧島市議会で執拗に地熱発電所建設促進を訴えている。
地熱開発反対の理由
1 えびの高原の検証
平成6年11月、大霧地熱発電所の建設が始まり平成8年3月から19本の井戸で稼働を始めている。この年9月23日、宮崎日日新聞は「えびの高原露天風呂客激減、湯温下がり水に」と報道している。その後平成18年5月9日、南日本新聞は「えびの市露天風呂休業 湯温低下、観光に傷手」と大きく報道した。年間3万人の観光客を迎えた有名な観光名所の露天風呂が休業し、今では廃墟となっている。またえびの高原全体を覆っていた温泉噴気もすっかり消え失せ乾ききった硫黄山に変貌している。日鉄鹿児島地熱(株)は「雨や台風の影響」とか「噴気の減少が発電所稼働と偶然に重なった」とかの説明をするが、私たちは納得していない。
業界誌によると霧島地区の地表物理探査は昭和48年に開始され、昭和63年まで企業調査井21本、国の調査井15本、合計36本39563mが掘削され、さらに平成2年から地熱開発の井戸を14本掘削している。しかもその井戸は温泉旅館が使うものとは桁違いの大きさで1500m~2000mの坑底で口径216mm。1本の井戸で蒸気量熱水量あわせて200t/h~300t/h以上という莫大な温泉を噴出する。大霧発電所は19本(生産井10本還元井9本)の井戸で始まっているが、発電量を維持するために16年間にさらに井戸を9本掘り進めている。このように私達の知らない間に坑井が次々に掘削され、地熱発電所建設から10年を経てえびの高原から噴気が消失してしまっている。大霧発電所は3万kwフラッシュ式地熱発電所で1200t/h(内蒸気量290t/h)の温泉を使用しているが、大量に温泉を使用する地熱発電所が霧島温泉から3kmの至近距離にさらに新たに2箇所も計画されている。その温泉の採掘量は持続可能な範囲なのだろうか。
2 住友金属鉱山(株)の報告書
平成6年6月21日、霧島温泉旅館協会より住友金属鉱山株式会社資源事業部に対して地熱発電と温泉給湯をすすめて地域活性化に役立てないか協力をお願いしたもので、平成6年から平成8年にわたって空中写真判読・地表地質調査・電磁探査・地化学探査が実施された。その調査は61ページ及び巻末資料20ページにわたる膨大な報告書で最終的に次のようにまとめてある。
「電磁探査の結果,粘土化変質帯と考えられる低比抵抗眉は霧島温泉郷にも連続するものと推定された。すなわち,低比抵抗層の下に発達する地熱貯留層としては山の城地区と霧島温泉郷地区は一連のものと推定される。」
「山の城地区と霧島温泉郷地区の間を結ぶ断層の発達がある場合,山の城での地熱発電は霧島温泉郷へ早期に影響を与える可能性がある。この場合,開発と同時に給湯に要する配管設備を備える必要が生じる。」
山の城地区と白水越地区とはほぼ同じ場所である。住友金属鉱山(株)は霧島温泉に影響を与える可能性があると報告しており、この地区の地熱開発が危険である事は明白である。
3 宮崎県の白鳥温泉の事故
平成5年10月7日、宮崎日日新聞は「えびの白鳥温泉に油、営業中止、地熱開発調査で混入」と報道している。NEDOはえびの白鳥地区を地熱発電所の有望地域とし調査井を掘削していたが、その最中に起きた事故である。白鳥温泉は平成5年10月5日から平成6年5月13日まで休業し補償金約2400万円を受け取っている。開発業者は断層が違う、貯留層が違う、掘削深度が違うという理由で既存温泉に影響はないと説明するが、それでは白鳥温泉の事故を説明できない。開発業者は地熱発電が温泉に影響を与えた事例はないと説明するが、それは真実なのだろうか。
4 牧園町郷土誌
昭和56年発行の「牧園町郷土史」に地熱開発のページがある。「交換熱水は地域暖房や温泉給湯、農業用温室、養魚など幅広く使われ産業の振興はもとより生活の向上に役立ち新しい豊かな町作りの展望が広がって・・」とありバラ色の将来を夢見ている。しかし大霧発電所ができて16年経過するが、そのような恩恵はどこにもない。開発業者のPR誌に は「地熱の多目的利用として、浴用はもちろんのこと農業・漁業・工業・道路融雪などさまざまな目的に使うことができる」とある。大霧発電所の建設前に大いに期待されたことが何一つできていないのに、どこにどのような利用ができるのだろうか。
5 国立公園の自然保護
正徳4年(1714年)飯田喜八が発見した硫黄谷温泉、延享元年(1744年)安藤仲兵衛国広よって発見された栄之尾温泉など霧島温泉は古い歴史をもち昭和9年我が国で最初に国立公園に指定された。今年は霧島錦江湾国立公園として再編成され2014年には指定80周年を迎えようとしている。地熱発電所が計画されている周辺は涵養保安林で地元住民や霧島市の水源地でもある。還元井に流される大量の熱水の行方はほんとうに最後まで確認され問題はないのか。この地に鳴子温泉の鬼首地熱発電所のような大事故が絶対起こらないといえるのか。国立公園の森林ができるには千年の歳月を要するが破壊は一瞬である。小規模分散型の温泉発電の技術革新が進んでいる中、美しい霧島国立公園の大切な場所に大規模な地熱発電所が今すぐ必要なのだろうか。