地熱発電は温泉に影響を与える

住友金属鉱山株式会社の報告書

調査地図
調査地図

平成9年3月  住友金属鉱山株式会社資源事業部

霧島温泉郷 山の城地区地熱開発調査報告書より

 

 

 

 

この調査は平成6年6月21日 霧島温泉旅館協会より住友金属鉱山株式会社資源事業部に対して地熱発電と温泉給湯をすすめて地域活性化に役立てないか協力をお願いしたもので、平成6年度から平成8年度に亙って空中写真判読・地表地質調査・電磁探査・地化学探査が実施された。その調査は61ページ及び巻末資料20ページにわたる膨大な報告書で、以下は最終的なまとめの項である。

 

 

11.調査結果のまとめと結論

111まとめ

山の城地区の調査としては平成6年度から平成8年度に亙って空中写真判読・地表地質調査・電磁探査・地化学探査が実施された。

(1)空中写真判読・地表地質調査の結果,地表地質及び粘土化変質帯の分布が明らかとなつた。

(2)電磁探査の結果,粘土化変質帯と考えられる低比抵抗層(難透水層)の地下分布と大まかな断層分布が明らかとなった。また,粘土化変質帯と考えられる難透水層の地下での厚さは200から600mにわたり,霧島温泉郷にも連続するものと推定された。すなわち,地熱貯留層としては山の城地区と霧島温泉郷地区は一連のものと推定される。

(3)地化学探査の結呆,山の城噴気帯は鳥地獄よりも粘土化による閉塞(シーリング)が強く開発に当たっては電磁探査による推定断層を狙うにしても深部の高比抵抗域まで掘削する必要があると推定された。

 

11-2結論

(1)簡単な貯留層シミュレーションによれば,既存の試錐データなどから山の城地区では開発範囲を1平方kmとすれば発電能力は1万kw以上におよび,開発範囲を広げればさらに発電量は増大する。山の城地区と霧島温泉郷地区を結ぶ顕著な断層が想定されなければ,霧島温泉郷への給湯を伴う山の城での1万kwの発電は,霧島温泉郷の温泉水位低下を防ぐ効果がある。

(2)電磁探査の結果,粘土化変質帯と考えられる低比抵抗眉は霧島温泉郷にも連続するものと推定された。すなわち,低比抵抗層の下に発達する地熱貯留層としては山の城地区と霧島温泉郷地区は一連のものと推定される

(3)空中写真判読及び電磁探査結呆によれば山の城地区の断層群の方向は東北東-----西南西が多いが,西北西-----東南東方向の断層も認められる。霧島温泉郷地区は送電線・電話線が多く電磁探査の実施が不可能であるため,霧島温泉郷地区の地質構造の把握は困難である。すなわち,山の城地区と霧島温泉郷地区の間を結ぶ断層の発達があることを否定できない。

(4)山の城地区と霧島温泉郷地区の間を結ぶ断層の発達がある場合,山の城での地熱発電は霧島温泉郷へ早期に影響を与える可能性がある。この場合,開発と同時に給湯に要する配管設備を備える必要が生じる。

(5)山の城地区での地熱発電計画の目的は電力開発と温泉源の保全を両立させることにある。しかし,開発以前に配管設備を備えることは初期投資が大きくなり過ぎ,採算上開発計画が成り立たない。

(6)平成8年に卸電力の応札が行われ,初年度は電力6社が計256万5千kwの枠で募集し,応札はその4倍を越えた。その入札価格は電力会社の入札上限価格9.3円/kw時を大きく下回り平均2割安くゼネラル石油は6円台後半だったといわれる。東京電力による今後l0年問に運転開始予定の火力発電所12個所の平均建設単価は29万5千円/kwである。山の城での建設単価は約50万円/kwであり,その内4割を新エネルギー・産業技術総合開発機構からの補助金で賄っても30万円/kwとなり,これに配管設備費用を加算すると全く競争力を持たないことになる。従って,将来政府による配管設備への補助金があれば本計画は実現性を帯びるが,現時点での開発は困難と考えざるを得ない。

以上